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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)827号 判決

上告人

横浜日野自動車株式会社

代理人

山田盛

山田尚典

被上告人

志村有信

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山田盛、同山田尚典の上告理由第一点について。

道路運送車両法による登録を受けていない自動車は、同法五条一項および自動車抵当法五条(昭和四四年法律第六八号による改正前のもの)の規定により所有権の得喪ならびに抵当権の得喪および変更につき登録を対抗要件とするものではなく、また同法二〇条により質権の設定を禁じられるものではないのであるから、取引保護の要請により、一般の動産として民法一九二条の規定の適用を受けるべきものと解するのを相当する。そして、この理は、道路運送車両法により登録を受けた自動車が、同法一六条(昭和四四年法律第六八号による改正前のもの)の規定により抹消登録を受けた場合においても同様である。右と同旨の原審の判断は正当であつて、論旨は、採用することができない。

同第二点について。

およそ、占有者が善意に占有をなすものと推定されることは、民法一八六条の定めるところであり、また過失なくして占有を始めたものと推定されることも、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和三九年(オ)第五五〇号同四一年六月九日第一小法廷判決民集二〇巻五号一〇一一頁参照)。したがつて、占有取得者である被上告人は、民法一九二条にいう無過失の立証をすることを要しないものというべきである。

右の見解に立つて本件をみるに、原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、論旨指摘の事実を考慮しても、なお、被上告人が本件自動車につき質権の設定を受けてその占有を始めるに当り、悪意であつたか、または過失があつたとするに足りないのである。被上告人が善意無過失であつた旨の原判示は、当裁判所の前記の見解に照らし、結局正当であつて、論旨は理由なきに帰する。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一 岡原昌男)

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